家具デザイナー『小泉 誠』


投稿:2010.05.22
【東京エリア】 【インテリア・雑貨】 【インタビュー】 【アーティスト・著名人】 【アート】

大切なのは一緒にものづくりをしている人達が、ワクワクして充実感をもって仕事ができること。そうすれば必ず誰かに伝えたくなるし、多くの人が伝えてくれるモノや活動ができるんです。

家具デザイナー 小泉 誠家具デザイナー 小泉 誠

 箸置きから家具、そして建築デザインをはじめ、ショップやギャラリーなどの空間デザインを手がける傍ら、美術大学やデザイン専門学校では教授・講師を務め、さらにデザインを通じ全国各地の地域団体と交流を図り、地元の活性化をサポートするなど、多方面で活躍している家具デザイナーの小泉 誠さん。
 実は小泉さんは、宮崎県とも関係が深く、かれこれ十数年に渡り、都城市・三股町といった県内の家具メーカーと共に、宮崎県産の杉材を使用し、流行に流される事のない本物の家具づくりを目的とした『miyakonjo product』を展開している。

家具デザイナー 小泉 誠

 そこで今回のインタビューでは、そんな『miyakonjo product』と合わせ、家具の産地として全国的に有名な広島県府中市と福岡県大川市の家具メーカーと共に立ち上げた、オリジナル・デザインの木材製品を製作する『kitoki』の両ブランドに関するエピソードをお聞きすると共に、全国を飛びまわり様々な活動家や技術者達と深く交流を持つ小泉さんならではの視点から見たデザイン感や、大量生産・大量消費時代における家具づくりのありかたなどを詳しく語っていただいた。
(取材・文:松田秀人 取材協力:kitokimiyakonjo product有限会社イエムラ

 記事関連ホームページ

☆Koizumi Studio・こいずみ道具店 公式ホームページ
URL:http://www.koizumi-studio.jp/
☆miyakonjo product 公式ホームページ
URL:http://www.miyakonjo-product.com/
☆kitoki 公式ホームページ
URL:http://www.kitoki.jp/
☆kitoki 宮崎県取り扱い店「有限会社イエムラ」ホームページ
URL:http://www.iemura.com/

 

小泉 誠 プロフィール及び受賞歴

※下記のプロフィール及び受賞歴の内容は公式ホームページより抜粋

URL:http://www.koizumi-studio.jp/

プロフィール

2008 大同大学プロダクトデザイン学科客員教授
2007 日本デザインコミッティメンバー
2005 「と/to」出版
    武蔵野美術大学空間演出デザイン学科教授
    レジデンシャルライティングアワード審査員
2004 桑沢デザイン研究所 非常勤講師
    富山クラフトコンペ2004 審査員
    KOKUYO DESIGN AWARD審査員
2003 こいずみ道具店 店主
    「デザインの素」出版
    オリベ想創塾 客員教授
2001〜 富山県大山地区「木と出会えるまちづくり」委員
2000〜2003 グッドデザイン賞審査委員
1999 名古屋デザインミュージアム展示
1999〜2004 多摩美術大学環境デザイン学科非常勤講師
1998 徳島県観光デザインアドバイザー
1990 コイズミスタジオ設立
1985〜 原兆英・原成光に師事
1960 東京生まれ

受賞歴

2007 JCDデザインアワード 銀賞(SAYA)
2006 JCDデザインアワード 金賞(tocoro cafe)
2004 JCDデザイン賞 奨励賞(こいずみ道具店)
    DDA賞 奨励賞(折形半紙1/2)
2003  JCDデザイン賞 優秀賞(T+M HOUSE)
    DDA賞 優秀賞(御紙漉屋の障子展)
2002 グッドデザイン賞(kitokana)
    グットデザイン賞 金賞(sumireaoi house)
    JCDデザイン賞 優秀賞(WARMS OFFICE)
    JCDデザイン賞 優秀賞(富山県福沢地区コミュニティセンター)
2001 JCDデザイン賞 奨励賞(shop io)
    JCDデザイン賞 奨励賞(ギャラリー・はこね菜の花)
    JCDデザイン賞 奨励賞(TSS 50+)
2000 JID賞インテリアスペース部門賞(sumireaoi house)
    JCDデザイン賞 シモヘイッキラ賞
    (黒田泰蔵展+花岡隆展/WASALABY)
1999 JCDデザイン賞 奨励賞(GALLEY VEGA)
1998 JCDデザイン賞 奨励賞(WASALABY)
    ナショップライティングコンテスト 優秀賞(WASALABY)
    INAX デザインコンテスト 入賞(野喜食料苑)
1997 SDA賞 準優秀賞(まんじゅう屋菜の花)
    JCDデザイン賞 優秀賞(TOPPAN IMUSE)
    JCDデザイン賞 奨励賞(ATTITUDE)
    ナショップライティングコンテスト 優秀賞(ATTITUDE )
1996 JCDデザイン賞 奨励賞(TOPPAN IC ROOM)
    JCDデザイン賞 奨励賞(おむろ)
    JCDデザイン賞 奨励賞(ハーヴェストン)
    DDA賞 優秀賞(C’SC95′ ウシオスペックス)
    DDA賞 優秀賞(小泉誠・おいしいスツール展)
    CSデザイン賞 銀賞(TOPPAN IC ROOM )
1995 JCDデザイン賞 奨励賞(TOPPAN SP PLAZA)
    JCDデザイン賞 奨励賞(鍋島美術工芸)
1994 JCDデザイン賞 優秀賞(GALLERY SUZUKI)
1993 DDA賞 優秀賞(グッドリビングショー’93 スタナダイン)
    JCDデザイン賞 奨励賞(野喜食料苑)
    ナショップライティングコンテスト 入賞(野喜食料苑)
    ナショップライティングコンテスト 新人賞
1992 ナショップライティングコンテスト シルバー賞 (90’s LABO)

 

小泉 誠 インタビュー

家具デザイナー 小泉 誠

 

宮崎との関わり、『miyakonjo product』について

 

Q:東京を拠点に活動をされていらっしゃる小泉さんですが、宮崎県とも繋がりがあるとうかがっております。

「お付き合いが始まったのはもう十数年前になるんですよ。宮崎県は都城市と三股町にある家具メーカーの方達と共に、宮崎県産の杉材を使用し、伝統的な木組みや仕口を用いて、流行に流される事のない本物の家具づくりを目的とした『miyakonjo product』を展開し、現在も進行中です」

Q:『miyakonjo product』開設のきっかけは?

「当時の僕は30代で、ジャンルやエリアにとらわれず様々なものが作りたい時期だったから、今以上に全国各地域に飛びまわり、活動家や技術者など、いろんな人達との交流を積極的に行っていたんです。そんな中、宮崎県で家具を製作している人達と出会い、意気投合してスタートしたのがきっかけです。プロジェクトの内容は、地元家具メーカーの二代目世代の方々が中心となり、補助金事業の一環として家具をテーマに地域を活性化していこうと、僕が関わる以前から、内部でいろいろアイデアを出し合っていたようです。たとえば『若いカップル達をターゲットに、オリジナル家具で新生活を提案する』といったテーマを決めて家具を製造するといったような……」

Q:すぐに起動に乗りましたか。

「僕もそこに入りいろいろと試みたのですが、中々うまく進みませんでした。それはテーマや家具の出来が悪かったというのではなく、補助金事業ありきで行われていた活動だったからなんです。宮崎県に限らずどこの地域でも、そうした補助金事業って、立ち上げ時がピークであとは尻つぼみになってしまうんです……。それは何故かというと、家具をデザインする人がいて、それを作る人がいて、みんなで補助金をもらえる分だけ製造を行う……。それを繰り返すだけで、まったく進化しないんです。まあ当たり前のことなのですが、全て自腹でやっていれば、いい製品を作るだけでなく、なんの為に作るのか?どれだけ売ったか?という目的意識や結果がそのまま次のアクションに影響を及ぼすから、ヴィジョンをもってトータルで考え活動していきます。しかし補助金事業の場合、売れなくても補助金分だけは入ってくるので、決まった枠の中で決まった製品を作ることだけに集中してしまい、正常な流れができないんです。そんなことだから徐々にトーンダウンしていくし、こんなご時世ですから、中には不況に耐えきれず倒産してしまう会社も出たりで仲間も減り、物理的に継続が不可能になってしまうんです」

家具デザイナー 小泉 誠

 

Q:そのような状態の中で、何故今まで継続することができたのですか。

「そうした苦い経験を踏まえつつ、それでも僕らと共に自力でいいから企画を継続したい、一緒に仕事がしたいと言ってくれた方々が2社残ったんです。そんな彼らの心意気があってスタートしたのが<a href=”http://www.miyakonjo-product.com/”>『miyakonjo product』</a>の本当の意味でのはじまりだと思っています。もちろんリスクは高くなります。打ち合わせや販売活動を行うための交通費や、試作品を製作するにも費用はかかるし、その上で良質な製品を全て自前で製造しようというのですから……。ただ発想や意識が補助金ありきでなくなったため、メーカーも意見やアイデアを出し、必死で食らいついてきます。だから僕らもそれまで以上に何をどう協力したらいいのかが突っ込んだ形でイメージできるようになりました。また同じ補助金を使うにしても、例えば『今度の展示会でこんな企画を考えているから、この部分だけを補助してください』といったように、目的を明確にしてから補助金を利用させてもらうことで、使いっぱなしではない、次のステップにつながる活きたお金の使い方ができるようになったんです。なによりよかったのは、本当にやりたい人間が残ったおかげで、自分達は何がやりたいのか?何のためにやるのか?がシンプルに、そしてリアルに考えられるようになったことです」

家具デザイナー 小泉 誠・画像提供:miyakonjo product家具デザイナー 小泉 誠・画像提供:miyakonjo product

(画像提供:miyakonjo product)

 

Q:継続することでどのような効果があったと考えますか。

「僕らとしては、当然残った都城市・三股町の2社で出来ること、その地域、その会社らしさを考えていかなければなりません。例えば材料の面などからも地域の特色を活かさなければならないし、技術的な面でいえば、NCルーターのような大きな工作機械をもっている会社はそれが活かせるようなデザインを、また木だけでなく鉄の加工なども得意とする会社はそうした技術を積極的にデザインに取り入れブランドイメージを磨き上げるというようなことです。そんな中から独自のものを見つけ出そうと、僕らと2社が一緒になってこれまでにいろいろと試行錯誤をしました。加工だけでなく、塗装や仕上げにしても様々な実験もしました。だから<a href=”http://www.miyakonjo-product.com/”>『miyakonjo product』</a>の財産は、金銭的な部分やアイテム数といったところにはありません。むしろそうした十数年の取り組みによって磨かれた、活動に根づいた意識や思考、そして価値観こそが大きな財産になっているのではないでしょうか。商品開発の周期やスタイルもマイペースだし、売るために無理矢理過去のものをすたれさせるような手法もとっていません。無理をしていないから方向性がねじ曲げられることなく活動が長く継続しているのだと思います。僕が知っている限りでは、補助金事業による地域活性化がきっかけでスタートした、デザイナーとメーカーによる共同作業が、ここまで長く継続しているケースは思い当たりません」

 

オリジナル・デザインブランド『kitoki』について

 

Q:小泉さんは『miyakonjo product』と同じようなスタンスで、『kitoki』というオリジナル・デザインのブランドを、インテリアデザイナーの関 洋さん(SEKI DESIGN STUDIO)と共に立ち上げていらっしゃいますよね。

『kitoki』はアメリカ広葉樹を使用し、家具から器に至るまで、生活に関わる様々な道具を、オリジナル・デザインの木材製品として、日本の家具づくりの技術や伝統を活かし幅広く製作しています。素材となるアメリカ広葉樹に関してですが、これも生態系や環境問題、さらに材料余りの問題など、先ほどお話しした『miyakonjo product』で宮崎県の”杉”を積極的に使用するのと同様に、どうにか使ってあげたい素材なんです。ブランド立ち上げのきっかけは、アメリカの広大な広葉樹林から毎年製材される大量の材料の中で、いいところばかりが先に売れてしまい、例えば節のあるような部分ばかりが大量に売れ残ってしまうのですが、その部分をなんとか利用する方法はないかという話からはじまりました。そうした材料は『アメリカ広葉樹輸出協会』が中心となり『アメリカ広葉樹を安く売るから積極的に使ってください』という活動を行っている団体が扱っているのですが、その団体がインテリアデザイナーである関 洋さん(SEKI DESIGN STUDIO)に相談を持ちかけたところ、『せっかく使うのであれば、アメリカ広葉樹の節の部分なども個性として活かされるようなデザインができるブランドコンセプトを立て、後世に残るようなものが作りたい』という考えに至り、僕にも声がかかった次第です。その後、関さんと僕とでブランドコンセプトをつめた上で、『アメリカ広葉樹輸出協会』と繋がりのある広島の府中市と福岡の大川市の家具メーカー数社に声かけをし、メーカーの協力を経て『kitoki』というブランドを立ち上げることになりました」

家具デザイナー 小泉 誠・kitoki家具デザイナー 小泉 誠・kitoki

 

Q:家具の産地として全国的に有名な、広島県府中市と福岡県大川市が一体となり、デザイナーを中心に一つのブランドを立ち上げるというのは、家具業界では画期的なことですよね。

「府中と大川といえば、それぞれが独自のスタイルと歴史を持って活動している全国有数の家具の産地なので、確かに画期的と呼べるかもしれません。現在は各地域から2社づつ、計4社によって運営されているのですが、当初はもっと多かったんです。でも<a href=”http://www.kitoki.jp/”>『kitoki』</a>のコンセプトや価値観をちゃんと理解しないで参加すると後々苦労をすることになったり、トラブルの原因になったりするので、スタート時から各メーカーへは厳しい要求を続けたんです。結局全てをご理解をいただき、それでもチャレンジを続けようと残ったのが、今お付き合いのある4社だったというわけです。それでよかったのだと思っています」

家具デザイナー 小泉 誠・kitoki家具デザイナー 小泉 誠・kitoki

 

Q:今後『kitoki』ではどのような展開をされるのですか。

「今までは<a href=”http://www.kitoki.jp/”>『kitoki』</a>というブランドをわかりやすくする為、統一感のある製品づくりを進めてきたのですが、これからは、せっかく個性的な府中と大川の家具メーカー4社が関わっているのだから、<a href=”http://www.kitoki.jp/”>『kitoki』</a>の中でそれぞれのメーカーのカラーを出していってはどうかという話し合いを進めているところです。例えば広島の府中であれば、デニムの生産に力を入れている地域に近いことから、デニムと木のコラボレーションなどが考えられますし、そうしたデザイン的試みは徐々に行っているところです」

家具デザイナー 小泉 誠・kitoki家具デザイナー 小泉 誠・kitoki

 

大量生産・大量消費時代の中での木工家具のありかた

 

Q:大量生産・大量消費の時代ですが、家具、特に木を素材とした家具というのは、それと対極にありますよね。

「大量生産というスタイル自体がいいとか悪いではなく、やはりどのような製品を作りたいかによるでしょう。数を作ることで品質が上がり販売価格を落とせるような製品であれば悪くないし、逆に大量生産によって品質や業界そのもの質が劣化するようであればそれは考え物だと思います。例えば南部鉄器のように、鋳型から作られるような製品にも価値ある本物はありますし、精度の高い良質な鋳型を作るのにコストがかかるため、数を作らなければ良質な鋳型の製作料を確保することができません。製品の品質とコストパフォーマンスを上げるために製造個数がたくさん必要なわけです。しかし、みなさんもご存じのように、量産ものであっても南部鉄器は誰もがみとめる、とても価値のある本物なんです。ただおっしゃるように木を素材とした木工家具は、鋳型や金型から作るわけではないので対極にあると言えるでしょうね」

Q:見た目は木の家具でも、実際は後から表面にそれらしい木目を貼っているだけの格安でもろい製品がたくさん出回っていますよね。昔の木工家具って、親からゆずり受けたり、修理するなど長く使うイメージがあるのですが、今は家具も使い捨ての時代のようです。

「家具全体を見渡せば、布や皮、ガラスにプラスチックなど、木以外の様々な素材も使われており、中には大量生産に耐えうる素材もありますが、問題は木工家具のように、職人の手で一つひとつ作ってこそ本物であり品質も向上するという製品を、無理矢理大量生産してしまうことなんです。販売価格は安くなりますが、同時に品質も確実に低下しています。安かろう悪かろうがわかっていながら、買いやすいからどんどん買い、価値のないものだからすぐに飽きてしまったり、ちょっとした不具合があればすぐに捨ててしまうというのはいかがなものでしょう?またそれが一般的になっているということにも疑問を感じます。そんなモノに対する安易な意識が現代社会に大きな影響を及ぼしているとは思いませんか?確かに僕が関わっている『miyakonjo product』や『kitoki』などは、生産者側からすれば、大量生産・大量消費の時代に逆行している非効率的なものかもしれませんが、でもプラスチックやアルミニウムとは違う、木という繊細な素材を使用するからには、もっと大切に扱ってあげるのが当たり前のことなんです。技術的に見せかけだけで作ることが可能な時代かもしれません……。しかし50年、100年と生き続けた”木”という材料を使っているのに、たった1年で壊れてしまったり、すぐに飽きられたりでは可哀想だと思いませんか?」

家具デザイナー 小泉 誠

 

Q:我々のような情報を発信する業界も似たような問題があると思います……。

「そうですよね。特に紙媒体などは似ているかもしれませんね。いい記事がいっぱい詰まった人気の雑誌などは、発行部数が多くなればなるほど、編集者や出版社の心がけ次第でさらにいいものができるし、コンテンツの質を上げることができますよね。でも雑誌の質が落ち、販売力がなくなると経営が苦しくなり、コンテンツの大半を広告に頼らなければならなくなり、さらに経費削減でライターやカメラマンなどの質もさがります。ただ広告が増えたことにより、一時的に収入は増えるかもしれませんが、全体的にコンテンツが劣化するからまたすぐに人気がなくなります。そうやって売れなくなると今度は大げさな見出しや、露出度の高さなど、小手先で取りつくろい安売りをしてバランスを取ることに必死になるんです。このうなるともはや雑誌のコンセプトもなにもあったもんじゃありません。そして安売りがはじまると、価格につられた人々がまたその一瞬だけ局部的に飛びついてしまうから、その現象に引きずられるように、似たような状況に陥った他社も価格競争に参加することになります。しかし見た目が派手なだけで、読んでみれば内容がつまらないないのは当たり前のこと。やがて広告主もユーザーもすぐに飽きてしまうんです。怖いのは、気がつけば業界の大半がそうした状態に陥ってしまい、一方で一生懸命”本物”を作っていても、いつの間にか本物志向の書籍は全体的に高いというイメージを勝手にもたれ、買い控えされているうちに体力がなくなりいつの間にやら廃刊に追い込まれる……。結果、街のあちこちに見てくれだけの安物が溢れ、本物の記事を扱う骨太の本と出会うこと自体が難しくなってしまうと同時に、ユーザー達の価値観やセンスも低下してしまうんです。木工家具の業界も同じです。そんな中で僕らも自分達の価値観を信じ、未来に目を向けて活動をしているわけです」

Q:即効性ばかりが求められる世の中ですが、やはり時間が経過しなければ評価することができないものもありますよね。本物であればあるほど、ちゃんと理解するのに時間がかかるはずだと思うのですが。

「デザインに関しても、一瞬の間にどれだけ多くの人に伝えることができるかというものがある反面、時間をかけてゆっくりと広がっていくことを目的としたものもあります。今回お話した、『miyakonjo product』や『kitoki』は、少なくとも5年10年先を見つめて継続しているプロジェクトだし、きちんとやろうとすればそれなりの時間がかかってしかるべきなんです。かといって10年後にも必ず存在していなければならないのかといえばそんなことはないと思います。その先にある結果はひとつではないし、だからプロジェクトを進めた結果、やがてみんなが独自の力で立って行けるような体力がつき、そのためにプロジェクトを解散するというのであれば、それはいいことだと思います。ただどの地点においても、しっかりとヴィジョンをもつことは重要です」

 

小泉さんならではのデザイン感

 

Q:小泉さんは、どのようなスタンスでデザインと向き合っているのですか。

「僕にとってデザインするということは、単に表面的な図案をどうこうするだけでなく、素材をとりまく環境や実情などにもしっかりと目を向け、その中で僕もクライアントも共によりよく進化していくことができるプランを総合的に考えることなんです。素材として木を扱うのであれば、目の前にある材料だけでなく、山や川のことも考えながらプランニングします。デザインという行為を行う上で、いかにして素材と向き合うかというのはとても重要なことなんです。それは料理を作るのと同じことで、素材や素材をとりまく環境のことをよく理解していないと、いくら手を加えても美味しくならないどころか、時にまったく逆効果になってしまうこともあるんです。さらに素材に関して言えば、僕は僕を含め、企画や活動に関わる人々や環境も素材の一部だと考えています。人と人との出会いもデザインの一部だと考えると、いろんなものが繋がりはじめ、ひいては街づくり、人づくりに発展していっても不思議はないんです。だからデザインってとても奥が深いし、経験を重ねるごとにデザインするエネルギーが増し、センスが磨かれていくんです。もちろんなんでもかんでも手を加えればいいというものでもないので、僕としてはたとえビジネスに繋がる依頼があったとしても、もし手を加える必要がないものが対象であった場合ははっきりとお断りしています」

Q:小泉さんはなんの為にデザインをするのですか。

「今の僕はデザインをすることで誰かの役に立ちたいと願っています。決してお金やエンドユーザーの為だけにデザインをしているのではありません。大切なのは一緒にものづくりをしている人達が、ワクワクして充実感をもって仕事ができること。そうすれば必ず誰かに伝えたくなるし、多くの人が伝えてくれる製品や活動ができるんです。そんな意識や思考をもって継続しているのが『miyakonjo product』であり『kitoki』なんです。先ほども話しましたが、補助金ありきの切り口ではじめたものがうまく継続されないのは、そうした重要な意識や思考の部分を飛び越えて進行してしまうからなんです。今回も『kitoki』の展示会に関する会合が福岡であり、その場で関係者のみなさんに『当たり前のようにデザイナーがデザインし、それを当たり前のようにメーカーが製作するという、そんな状態に疑問を感じないのは駄目です。デザイナーがデザインしたものに対して、メーカー側も良い悪いをきっちりとジャッジしこちらに意志を伝えてくれないと長期に渡って良い関係を続け、良質な製品を排出することなんてできません』と話しました。たとえ他のブランドがどうであっても、僕が関わるものに関しては、デザイナーも意見やプライドをもってデザインする代わりに、デザイン料を支払うメーカーからも、デザインが駄目であればはっきりと駄目出しをしてほしいし、何故駄目なのかをちゃんと説明してもらいたいんです。そういう意識をもってお付き合いを継続することで、お互いの関係も製品やブランドも進化していくのです」

家具デザイナー 小泉 誠

 

Q:最後に、小泉さんの個人的な目標をお聞かせください。

「そうですね、目標ははっきりしています。今後はぜひ自分の手で製品を作りたいんです。デザインだけでなく製造そのものがしたいんです。今でも試作などは全部自分で作っているのですが、そうではなく、僕が作った製品そのものを直接エンドユーザーに伝えたいんです。これは昔から変わらぬ目標なんです。そんな目標もあって、2003年に『こいずみ道具店』を開設しました。ただ、どちらかといえば『こいずみ道具店』はエンドユーザーというよりも、製造者達を意識しているんです。それは『デザインだけでなく製造にも目を向けていますよ』という僕の意思表示なんです。それとは別に、今までお付き合いのあった地域の中から、お互いにいろいろとアイデアを出し合って地域と地域を繋いでいくことができないかなと思っています。海外を含め、こうして全国を飛びまわり、様々な人と関わっているからこそできることだし、もしかしたらデザインというイメージからするとヴィジュアル的にわかりにくいのかもしれませんが、人と人、地域と地域を繋げて活性化させていくことも、デザイナーの仕事の醍醐味ではないかと思っています」

ありがとうございました。

 


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