撮影から配給まで全て宮崎!映画『空と海のあいだ』


投稿:2015.01.06
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社会人になる覚悟、現実と向き合う勇気、そして自問自答を繰り返す事の意味を考える行為に対し、もっと積極的になって欲しい。
(南 柱根 監督)
この映画が共有財産として、宮崎の人々に愛されればという願いを込めてつくっています。
(浜本正機 プロデューサー)

空と海のあいだ

▲「空と海のあいだ」のワンシーン。堀江漣子(右)と吉原千穂子(左)

 企画・撮影・製作・配給、そのすべてが宮崎で行われたという、完全宮崎産映画『空と海のあいだ』の先行上映が、2014年12月27日より、宮崎県内の4劇場(セントラルシネマ宮崎、宮崎キネマ館、延岡シネマ、シネポート)にて開始されました。また、先行上映に伴い「延岡シネマ」では初回上映後に、浜本正機プロデューサー、そして南 柱根監督による舞台挨拶が行われました。

空と海のあいだ
監督:南 柱根
出演:竹富聖花、中井知鶴、小関裕太、さとう珠緒、山本陽子

公式ホームページ
URL:http://soraumiaida.com/
フェイスブックページ
URL:https://www.facebook.com/soraumiaida

 実は今、『空と海のあいだ』で試みた映画製作スタイルが話題となっています。映画製作といえば、従来は東京等の大都市で映画制作委員会が発足され、製作をはじめ、著作権や配給・PR企画戦略といった重要な決め事は全て中央でとりまとめられてきました。したがって、地方都市が映画製作に中枢に入り込むことはシステムとして難しく、大半はロケ地協力や映画上映といった部分でしか関わることができませんでした。
 しかし、この『空と海のあいだ』は、ロケ誘致だけでなく、地元企業に呼びかけ映画製作法人自体を宮崎に設立(誘致)することにより「映画製作の全てが宮崎産」という形で展開していく「新しい映画誘致の形」をつくり出そうとしています。
 そこで今回のレポートでは、12月27日に「延岡シネマ」で行われた舞台挨拶の風景と合わせて、宮崎という地で「地方主導型映画製作ビジネス」という新しいスタイルに挑戦する、浜本正機プロデューサー、そして南 柱根監督にインタビューを行い、作品内容や取り組みに対する意気込みを語ってもらいました。
(取材:松田秀人)

2014年12月27日(土)より県内4劇場にて先行上映
・宮崎市:セントラルシネマ宮崎、宮崎キネマ館
・延岡市:延岡シネマ
・都城市:シネポート

 

映画のあらすじ(公式サイトより)

あなたといる幸せ
あなたのいる幸せ

 母と二人暮らしの漣子は、家業の定食屋を手伝いながら、介護福祉士をめざす専門学校生。共に学ぶ友人達とは違い、自分のやりたい事に確信が持てずにいるが、それでも明るく日々の生活を過ごす19才の女の子。

 幼馴染の千穂子は、子供のような精神年齢を持つ軽度の知的障がい者。同じ年でありながら、漣子と千穂子はまるで姉妹のように育ち、漣子は常に千穂子を気にかける間柄。 

空と海のあいだ

 そんな二人の前に現れる、東京からやって来た真司。カメラマンとしての夢に行き詰まりを感じていた真司は、千穂子に向ける漣子の笑顔に惚れ込んでしまう。

 将来に対する漠然とした思いを抱えながらも、千穂子や友人たちと共に楽しく毎日を過ごす漣子。真司にも徐々に心を開いて行く。

空と海のあいだ

 そんな折、いよいよ介護実習が始まる。現実の介護の現場を目の当たりにして、その厳しさに驚く漣子。自分の進む道に確信が持てぬまま、とまどいながらも激務を何とかこなしていく。 

 只々忙しい日々に流されていく中、漣子はストリッパーとして戦後の食糧難を生き抜き、5人の子供を育て上げた老婆と知り合う。「生きるという事」を、漣子に優しく語りかける老婆。

 そして、突然母から告げられる妊娠と再婚話。
 漣子は自分を見失い、むき出しの思いを千穂子に初めてぶつけてしまう。 

 周囲の人達に支えられながらも、人生の節目で起こる様々な出来事に向き合い、自分が目指すことに次第に価値を見出していく漣子。

 自分に足りない物よりも、自分が持っている物、それに向き合った時に、小さな奇跡が産声を上げる・・・

 

舞台挨拶

空と海のあいだ

開催日:2014年12月27日
会場:延岡シネマ(宮崎県延岡市)

 

プロデューサー 浜本正機(以下、浜本P)

空と海のあいだ

 

・浜本P
「映画“あさひるばん”(2013年やまさき十三監督作品)のスタッフとして参加していた2013年の9月頃から、宮崎の風景や人を題材にした映画をもう一度撮りたいと考えていました。この度、その夢がようやく叶いました。そんな事から我々にとってとても思い入れのある映画になっています。

 

監督 南 柱根(以下、南監督)

空と海のあいだ

 

・南監督
「“空と海のあいだ”先行上映初日にお越しいただきありがとうございます。宮崎県の皆様には、スクリーンを通して地元の風景を堪能していただけたことと思います。近年では、殺人やホラーなど、殺伐とした作品が多いのではと感じている次第ではありますが、そんな中、この映画は派手なアクションもなければ、手に汗握るサスペンス的要素もなく、淡々と一人の少女の成長を描いているだけです。
 実は近年においてこういう映画をつくることは勇気のいることでして、大手の配給会社ではなかなかつくれないというのが現状なんです。ですから、見どころは?と聞かれれば、まさにそういった部分こそが見どころであると言えるのではないでしょうか。そして、この映画は“いい人”しかでてきません。普通の映画には、必ず敵とか悪人が出てきますが、今回ばかりは、思い切っていい人だけにしてみました」

 

・浜本P
「そんな“いい人”に関しての話の続きになりますが、“あさひるばん”の制作時から、かれこれ2年ほど宮崎におじゃまし、これまでに多くの宮崎人と顔見知りになりましたが、不思議なことに、その中に悪人と感じるような人にまったく出会わなかったのです。たまたまかもしれませんが、そんなイメージが、我々の中で、この作品に悪い人を出さないということに繋がっていったのは確かだと思います」

 

空と海のあいだ

 

・南監督
「自然豊かな南国宮崎の風景に惚れたのはもちろんですが、とにかくそれ以上に人に惚れたという部分が大きいです。今回の撮影では宮崎県南地域がメインで、宮崎県北地域を映像として入れることは出来ませんでしたが、県北の方々にも大変お世話になりました。本当に感謝しています。残念ながら映像には出てきませんが、宮崎を愛するという気持ちで、県北地域の皆様もこの映画を応援していただければと思います。
 ちなみに、僕は映画界に入ってかれこれ30年近くなり、日本全国いろいろなところに行きました。一番最初はお隣の大分県でしたが、実は宮崎県に来たのは前回の“あさひるばん”での撮影が初めてでした。他の46都道府県を撮って宮崎県が最後だったわけです。そんな中、まさか自分の監督デビュー作を宮崎で撮るとは夢にも思っていませんでした……。だから余計に思うのです、宮崎の人と風景に惚れ込んだからこそ、こうして宮崎で映画をつくることができるようになったのではと……。そうした気持ちは、映画の中にもたくさん詰め込んでいます」

 

舞台挨拶での質問コーナー

Q.ラストシーンの演出がすごく気になるのですが、どういった意図からですか。

A.南監督
「最後のシーンはどうするか正直迷いました……。僕のなかでは、その後に続く言葉はひとつしかないのですが、それを言ってしまうとこの映画の世界がすごく狭くなってしまう……。テーマは押し付けるものではないので、見てくださった方が感じて思い浮かんだ言葉であれば全て正解だと思います」

 

Q.介護専門学校に通う19歳の女性が主人公という、ある意味、これまでの映画にはなかった切り口を選んだ理由は?

A.南監督
「青春映画といえば、決まりきったように高校生か大学生が主人公ですが、今回は、あえて専門学校を舞台に映画をつくろうというところからはじまっていて、であれば、現代における社会問題のひとつになっている“介護の世界”を舞台に描けば、そこからいろんな話が広がっていくのではないかと考えました。また、介護のことを描くことで青春映画ではあっても、興味をもって見ていただける世代もぐっと広がるのではないかという思いもありました。 
 介護福祉士になることは、もちろん大変で幸せなことばかりではありませんし、こういう映画を撮ると必ず“介護はそんな甘いものじゃないぞ”との突っ込みを受けるのは承知しつつ、それでも若い人が人生の選択をするのに、介護の世界に限らず、社会人になる覚悟、現実と向き合う勇気、そして自問自答をする事の意味を考える行為に対し、もっと積極的になって欲しいという願いも込められています」

 

空と海のあいだ

 

Q.撮影は、実在の施設や、職員、利用者さんも登場してるのですか。

A.南監督
「俳優以外の介護職員の方はみなさん本物の職員さん達です。利用者さんにも承諾をいただき、希望された方には出演していただきました。また、職員の方には出演だけでなく指導もお願いしています」

A.浜本P
「今回は介護施設であったり、養護施設をお借りして撮影しているので、編集などでも非常に気を使いました。デリケートな部分もありますので、通常より編集時間も多く使っています」

 

Q.最後に一言お願いします。

A.浜本P
「映画というと東京から全国へ配給されるイメージですが、宮崎でも東京に負けない映画がつくれるんだよ!宮崎から発信できるんだよ!というのを、宮崎県へのオマージュとして製作会社をつくり、さらに配給までするという珍しい形態でこの映画を作らさせていただきました。
 僕らは、この映画が共有財産として宮崎の人々に愛されればという願いを込めて作っています。これから上映期間が続きますが、よろしければ二度三度と足を運んでいただいて、お知り合いの方にもこんな映画があるんだよとお誘いいただき、応援していただければと思っています。これからもよろしくお願いいたします」

A.南監督
「正直言って、地味な映画だと思います。地味な映画ですが、製作陣の溢れんばかりの優しさがこもった映画でもあります。年末の忙しい時期に初回の上映を見に来ていただいた方は、この映画への関心や期待が高い方々だとおもいます。きっとご満足いただけたと思いますので、ぜひリピーターになっていただき、もっと多くの宮崎の方々にご覧になっていただけるようご協力をお願いいたします。できれば次回も宮崎で映画を撮りたいと思いますので、よろしくお願いいたします」

 

浜本P・南監督 特別インタビュー

 

南 柱根監督

空と海のあいだ

 

—–脚本は南監督のオリジナルとうかがいました。

南監督
「やっぱり映画製作の全てを宮崎で行うわけですから、地元の空気を肌で感じた上で生まれたものでないと嘘になると思いました。したがって完全なオリジナル脚本です。もちろんディテールに関してはスタッフ達と話し合って決めた部分もあります。当然、時にはぶつかることもありましたが(笑)。そんな中で一番最初に決まったのが、青春映画の主人公はいつも高校生や大学生だから、今回はドラマとしてあまりクローズアップされることのない専門学校生を主人公にストーリーを展開しようということになりました。そこに宮崎ならではのエネルギーや空間、さらに僕が元々もっていたアイデアなどを合わせて仕上げていきました。僕も長いこと映画の世界に身をおいていますが、じっくりと思い返して見ても専門学校生が主人公って、まずないんですよね……」

 

—–作品タイトルについてお聞かせください。

南監督
「なんといっても宮崎の大自然を見ているうちに、それこそ自然に浮かんだタイトルです。ストレートですが“この空と海の間に人は立っている”って!
 あと、これはあくまでもイメージなんですが、空と海が交わる水平線って雄大でとても美しいじゃないですか?でもね、その水平線って、どこまでいっても絶対に完全に交わることはないんですよ……。なんか人間関係みたいでしょ?近づけば近づくほどその距離が身にしみるみたいな……。自分の視点や価値観次第で、美しく見えたり、時にはそれが恐ろしいものになったりするのも似ているし……。そんな空と海の間を行ったり来たりしながら、出せるはずのない答えを探し求めるのが青春だったりするんじゃないかな?そんな場面が随所に散りばめられているのがこの映画です」

 

浜本正機プロデューサー

 

—–この作品は、映画の内容もさることながら、独自の製作スタイルが話題となっていますね。

浜本P
「もちろん、映画が好きな仲間が集まって、自分達のできる範囲で、撮りたいものを撮って自分達で上映する!そんな形も一つのスタイルだと思いますし、自主製作映画の中にも素晴らしい作品があることは十分承知しています。だからそういう世界感を否定はしません。ただ、自分としては25年間この世界で仕事をしてきたので、やはり映画製作イコール“ビジネス”なんです。そう考えた時に、最終的にビジネスとしての側面がなければ、自分は関わることができないと考えます。ビジネスよりも趣味性が優先されるのが自主製作スタイルなので、その部分に関して言えば大きく異なります。かと言って従来通りの大手が中心となって取りまとめをするスタイルでは、どうやっても地方都市が製作の中核(ビジネス)に入り込むのは困難です……。だからこそ、自主製作映画がもつ作品への純粋で熱い情熱は大切にしつつ、商業的価値を落とすことのないクオリティをしっかり保ち、且つ大手のスタイルよりも地域に密着していて自由度の高い、あらたな映画製作のビジネススタイルを、映画業界に提言したいと思っています。現在は東京でも、自主製作か大手主導かという両極端な製作手段以外は中々見当たりません。自主製作の情熱と自由度、そしてプロならではのクオリティ、双方のいい部分をバランスよく融合させ、情熱をもっていいものをつくる!この新しい映画製作スタイルに関しては、コスト面を含め、様々な理由から地方都市のほうがやりやすいと考えます」

 

—–何故、撮影から配給まで、映画製作の全てを地方都市でやってしまおうと考えたのですか。

浜本P
「たとえば、東京でなにかの映画の製作委員会が立ち上がります。ロケ地はある地方都市に決定しました。そんなことから何ヶ月間に渡るロケが行われます。当然、そのロケが行われている期間は、食事や宿泊を含め、ちょっとした経済効果は生まれます。ただ、同時に地元の方々にも大変ご迷惑をおかけしているのも事実なんです。ところが、ロケが終わると急にみんないなくなってしまい、後は東京から配給される作品を待つしかないんです。みなさんも映画製作が大変な作業であることはイメージできると思うのですが、地元の人達がそうした作業に、時にはボランティアで一生懸命協力してくれるのに、ロケが終わったら、まるでイベントが終わった会場のようにもぬけの殻になってしまうのです。私は常々そんな現状を寂しく思っており、そうしたロケ協力地域が単なる通過点としてではなく、映画の発信源そのものになることはできないものか?と考えていました……。しかし、今のシステムでは、地方都市はロケ地を誘致することぐらいしか映画に関わることができないのが現状なのです。そこで試みようと考えたのが今回のシステムなんです。このような手法が全国の地方都市で受け入れられれば、エンドロールの最後に表記される単なる“ロケ地”ではなく、正真正銘の地元産の映画として積極的に発信できるからなのです」

 

—–製作にあたり、会社組織は必要ですか。

浜本P
「まあ、配給まで考えた場合は、経験上必要だと思いっていますが、映画製作という部分に関していえば、会社をつくるつくらないはさておき、プロの俳優さんやスタッフと一緒に、最大限いいものをつくる努力をするという行為に対し、大手のように総額何億円とは言わなくても、やはり内容に見合うだけの資金確保が必要です。そしてその延長線上には、自分の仲間に見せて喜んでもらうだけでなく、より多くの劇場で上映してもらい、その作品を商業ベースに乗せ利益を出す努力もしなければなりません。何故なら、それがないと次がないからです。我々は趣味ではありませんから、一つひとつの作品で結果を残していかなければならないんです。その為に最大限の努力をします。だからこそ職業でないとやれないんです」

 

—–今後どのような展開をお考えでしょうか。

浜本P
「今回の試みにより、きっと全国の映画製作に興味をもたれている方々にひとつの目安ができたと思います。“地方都市で地域に密着した映画をつくり、地方都市から全国にむけてその作品を発信する”なんて考えても見なかったという方々にとっては大きなチャンスになると思います。この宮崎で生まれたアクションがきっかけとなり、もっともっと、映画の可能性が広がれば、私達もチャレンジした甲斐があったと思います。地域起こし、地域のPR、きっかけはなんでもかまいません!ビジネスとしての映画製作に興味がある方は是非ご連絡ください。自然、そして人、地方のもつ本当のエネルギーを映画を通して、一緒に発信していきましょう」

 

—–今日はお忙しい中ありがとうございました。

 


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