GIGLI(ジーリ)

自然の理に寄り添った野菜を自ら育て、
上質さを求める生産者から届く「真の食材」と向き合う。
そんな「良理屋」が提案する日常の中の驚きと発見。

 

 

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プロローグ 

JR宮崎駅から徒歩約10分、居酒屋などが軒を連ねる中心市街地にあるビルの1階。肩肘を張らずリラックスできる落ち着いた雰囲気と上品な優しさに包まれたレストランGIGLI(ジーリ) 。2011年のオープン以来、料理にはシェフ自らが育てた「自家栽培の無農薬野菜(お米も)」をはじめとした厳選食材がふんだんに使用されているのが大きな特徴です。

パスタなどのイタリアンがベースとなりますが、特にジャンルにはこだわらず自分らしさを追求し、いい意味で常に変化しつづける為に日々試行錯誤を繰り返しています。それと同時に、店内に足を踏み入れた瞬間からお客様が心を落ち着かせる事ができるレストランづくりを心がけたいと思っています」と語るオーナーシェフの外山慎さん(上画像右)。
その柔らかい物腰のなかにも、遊び心を大切にしつつ様々な挑戦をし、お店をよりよいものに成長させていきたいという、静かに燃える情熱を感じました。

今回のレポートでは、店内の様子やメニュー紹介に合わせて、自家菜園での収穫の様子や、外山さんがお店をオープンするまでの経緯、そして外山さんが考える「理想のレストラン」とはなにか?など、その思いをお聞きしました。ぜひ最後までゆっくりとご覧ください。

【モデル・レポート:大島桃子】
【編集:中本望美】
【撮影・制作】:ヴォーク有限会社 

 

自家菜園紹介

外山さんの自宅に隣接する「自家菜園」では、季節の野菜をはじめ、ハーブや花などを「自然の理」に寄り添って「無農薬」で育てられています。中には、一般的にはあまり食べられる機会のない野菜もあり、取材時には、トマトのようでありフルーツのようでもある甘酸っぱい「食用ホオズキ」や、まるでピンポン玉やサイコロのようなサイズの「ミニきゅうり」などが実をつけていて、実際に試食させていただきました。
見た目に鮮やかな色合の野菜や、外見に似合わず栄養価の高いものなど、多種多様な野菜たちが宮崎の太陽をたっぷり浴びてすくすくと成長している様子を見ていたら、なるほどこの自家菜園の存在が外山さんのインスピレーションの働きに一役買っているのだなと感じました。

▲田んぼではお米も「無農薬」で栽培されています

上の画像は、一緒に畑や動物たちのことを教えてくださった、外山さんのお父さんと、畑の片隅で飼っている鴨のピッピちゃんです。
お父さんがひょいと抱っこして、「畑の虫を食べてくれるんです」と教えてくださいました。人と遊びたくてくちばしで足をつついたり、時には散歩中のご近所さんに着いて行ってしまい、その方が「ついてきちゃったよ!」と道を引き返してくるなんてこともあるという、なんともチャーミングなエピソードも自家菜園ならではですね。

▲田んぼや菜園の害虫を食べるという、オーガニック栽培に大きな一役をになっているピッピちゃん。ピッピちゃん無しでは、OSTERIA GIGLIの料理は実現しないと言っても過言ではありません!

自家菜園から少し離れた場所で、3匹の可愛い山羊も出迎えてくれました。こちらも人が大好きなようで、近づくと尻尾を振って遊びたがります。自然豊かな土地と動物たちのいるこの素敵な空間は、ジーリで味わえる素材の味にも、良い影響を与えてくれているように感じられました。

 

 

店舗紹介

店内に入ると、床から天井までぎっしりとコルクがあしらわれた壁が目の前に広がり、かなりのインパクトがあります。コルク壁の横にあるカウンターと、その奥にあるテーブル席のインテリアは、ウォルナットを中心にした木製家具で整えられ、落ち着いた雰囲気です。

その空間での料理との出会い、自然の力を活かした外山さんセレクトのワインとのハーモニーを想像するだけで期待に胸が膨らみます。また、さりげなく飾られた季節のお花が可愛らしくて、なんだかホッと心がほぐれていくよう。この花も外山さんが畑で摘んだり花屋で購入したりして、自分で生けているとの事。

気取らない雰囲気の中に、センスがキラリと光る、外山さんの人柄がそのままにじみ出ているような店内。

扉を中心に、店内は2つの部屋に分かれており、カウンターがある部屋とは別の奥の部屋は少し印象が変わり、モノトーンを中心に、ドライフラワーなどをアクセントにしたシンプルな雰囲気です。

 

 

料理紹介

ジェノベーゼパスタ

自家栽培のオーガニックバジルをふんだんに使用した色鮮やかなパスタ。リング状になったパッケリーというパスタに、枝豆やオクラなどのグリーンが美しく白い焼き物のプレートに映えており、添えられたオクラの花が、まるで草原に舞い降りてきた蝶々のようで、目にも楽しいアクセントになっています。バジルの種を砕いた粉末も香りのスパイスとして使用されているのだそう。

パッケリーは想像以上に弾力があり、もちっとした食感が特徴でバジルペーストとしっかり絡みあいます。一口食べると、まるで爽やかな風が体を通り抜けるような爽快感に包まれました。

 

赤鶏の炭火焼き

見た目の豪快さとは裏腹に、肉質の柔らかさに感嘆してしまう赤鶏の炭火焼き。自家菜園で外山さんと一緒に収穫したミニきゅうりやホオズキも添えられています。

黄色い花びらはなんと「ひまわり」の花。外山さんがたまたま咲いているのを見かけて話を聞いたところ、無農薬で育てられていると知り、料理に使うことを閃いたのだそう。ボリュームたっぷりでお腹が満足するだけでなく、季節感も楽しめる一皿です。

 

黒豆と黒トリュフのモンブラン

自家菜園で育てた黒豆を甘く炊き上げたてペーストにしたモンブラン。お正月にはこの黒豆をおせち料理用に甘く炊き上げて自宅の食卓に並べるのだそう。想像していた栗ペーストのモンブランとは一線を画する、和風テイストのデザートです。

▲黒豆ペーストのしたにはアイスクリームが隠れていました。トッピングされたトリュフが豊かに香り、ブルーベリーの酸味が口の中をさっぱりとリフレッシュ。ひと皿で様々な食感と香りを楽しめます。

 

その他のメニュー紹介

 

■甘鯛のソテー大根とフェンネルのソース ハーブのサラダ 1800円

■里芋のニョッキと雲丹、海水のジュレ 1200円

■ティラミス 780円

■新玉ねぎパンナコッタキャビア添え 1400円

都萬牛もも肉の炭火焼 2800円

■アサリのスパゲッティ 1600円

 

 

インタビュー 代表 外山慎さん

原価を気にして料理に使うハーブを少なくしては
何だか物足りなくなって……。
自家菜園だと、高価なヨーロッパの野菜や
自分がほしい野菜を自由に育てられるし、
市場に出回っていない食材を使った料理を提供できるんです。

 

Q:お店をオープンさせた経緯ときっかけを教えてください。

「30歳ごろまでは、東京のイタリアンやフレンチ、ルーマニア料理店などで働いていました。僕は人生を5年スパンで考えていて、ちょうどその節目となる30歳になる時に、東京の店でシェフにならないかと声をかけていただいたのですが、イタリアに行って本場の味を勉強したいとも考えていました。しかし、いつかは地元にもどって思い描く店を開きたいとの思いもあったので、この三択を自問自答しました。そして、最終的にはイタリアに赴き、様々なレストランに行ったのですが、ここで働きたい!と思えるような衝撃的なお店との出会いはなかったので、自分の思い描く店を作りたいと考え、地元宮崎に帰ることを決め、2011年の11月にこのお店をオープンしました」

 

Q:お店のポリシーやこだわりを教えて下さい。

今まで、イタリアン、フレンチ、ルーマニア料理などの多様な料理店で下積みをしてきたこともあり、ヨーロッパで広く好まれるジビエ料理や、宮崎では郷土料理として親しまれていた食材などを自分が料理することで新たな親しみ方ができたり、宮崎だからこそ実現できる料理を目指していました。宮崎の食材で美味しいものを作るというシンプルなこだわりですが、食材についても深く掘り下げて考えました。今でこそ宮崎では食べられる機会の増えたジビエ料理ですが、開店当時にはまだ全く浸透しておらず、鹿肉やイノシシ肉を卸しているところもなかったので、狩猟免許やふぐ処理師の免許をとって自らの力で上質で安全な宮崎の食材を揃え、調理できるようにしました。フグは刺し身や鍋が一般的ですが、フリットにしたりカルパッチョにしたりすると違った美味しさを味わってもらえるんです

Q:自家菜園はいつからされているのですか。

「お店を始める前からです。もともと父がやっていた畑を使わせてもらっています。原価を気にして料理に使うハーブを少なくしては何だか物足りなくなって……。そういう部分をけちってしまうと美味しくならないんですよね。だから、思いっきり使いたかったのでハーブ類には特に最初から力を入れて栽培していました」

Q:どのような食材を育てていらっしゃるんですか。

野菜やハーブ、花、と様々で、ビワやブルーベリーも育てています。自家菜園だと、高価なヨーロッパの野菜や自分がほしい野菜を自由に育てられるし、なかなか市場に出回っていない食材を使った料理を提供することができます。芽が出る時期、花が咲く時期、実がなる時期、野菜の成長段階によってその時時の姿を料理や仕上がりのデザイン、風味などで使うことができるし、たくさん収穫できた時には、葉ものはパウダーにしたり、トマトはドライトマトにしたり、フルーツはジャムやペーストにしたりして保存し、大切に使っています

Q:これから、このお店をこんな風にしていきたいというビジョンはありますか。

「宮崎は他の場所に比べて、『普通のレストラン』というものが少ないように感じています。郷土料理や旬の刺身、ステーキなどがなんでもそろう居酒屋っぽいお店だったり、誰でも普段着で入店しやすい定食屋さんのようなお店が多いですよね。豪快に食事やお酒が楽しめる大衆的な食事店が発展してきたのは焼酎文化が色濃く根付いている宮崎の風土が背景にありますから、それはそれで大切な宮崎の文化だと思っています。そんな宮崎の環境の中でも、一方ではシェフが信念を曲げることなく追求した料理を提供するというシンプルなレストランで食事をする、という文化がもっと根付いてくれたらいいなと思っていて。『普通のレストランとはどのような……』という定義は語りづらいのですが、お客さんがお店に入った瞬間に「なんだか心地良いな」と落ち着き、食事をゆっくり楽しみ、くつろぎ、また来たいと思ってもらえるようなレストランなのかなと思います。その中心に自分らしさを追求した料理があるのが理想です」

Q:では、外山さんにとっての自分らしさとは何ですか。

「それは、これまでも、これからも試行錯誤しています。料理人とは、”シンプルを極める職人タイプ”と”いい意味で変化していくタイプ”の2つに分かれると思うんですが、僕は後者だと思います。自分で野菜を育てていますが、時には雑草なども使ってみようとするような遊び心を効かせると”こんなの出来るんだ!”という発見もあって、そこから違う変化を追求してみたりするんです。育てながら、作りながらやっているからこそブレもかなりありますが、それでいいと思っています。お店の料理は下積みの経験からイタリアンがベースになっていますが、『これ』というジャンルではありません。自分らしさといっても、人の影響を受けたっていい。変化を楽しむということが大事だと思っています。」

GIGLI(オステリア ジーリ)代表 外山慎さん(左)

Q:外山さん、お忙しい中ありがとうございました

 

エピローグ 取材を終えて

発見や変化を恐れず、楽しむことが大事。そんな柔軟さが、まさに外山さんらしさなのだと感じました。地元・宮崎の恵みの食材に真摯に向き合い、自然と触れ合うことでしか得られない泥臭さもある一方で、海外から本を取り寄せて勉強したり、東京で様々なジャンルのレストランで経験を積みながら培ってきた都会的なセンス。二つの面を持ち合わせている外山さんだからこそ、他のお店では感じることのできない料理と空間を提供することが出来るのだと感じました。私たちは知らぬ間に、「こうであるべき、こうなるべき」という固定概念に縛られてしまい、もしかすると何かに挑戦出来るタイミングを見落としているのかもしれません。「日々変わっていくことを恐れないことが大事」。インタビューを通して、そんな大切なことにも気づかせていただきました。

 

アクセス 

GIGLI(ジーリ)

住所:宮崎県宮崎市中央通3-22 高野ビル 1F
電話:0985-55-0780
営業時間:Dinner 18:00〜
定休日:不定休
https://gigli-miyazaki.com/

MAP

取材・編集スタッフ

モデルレポート:大島桃子
編集:中本望美
撮影・制作:ヴォーク有限会社 

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