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2006年05月19日

スポーツビジョンを研究する齋藤真之介さん [ スポーツ ]

スポーツにおける視機能を科学する!
 今回ご紹介するのは"視能訓練士"という仕事をされている"齋藤 真之介さん"。ちょっと聞きなれない職種だが、読んで字のごとく、眼の能力を高める訓練や、研究をする仕事である。普段我々が眼の良し悪しについて語る時の基準は「遠くの看板が見えない」とか「小さな文字がよみづらい」といったことだと思われる。パッと思いつく専門用語?といえば、近視、遠視、乱視・・・といったところだろうか?しかし厳密に言うと、眼の機能の中のどの部分が悪いのか、どの部分が弱いのかで大きく変わってくる。もちろん個人差はあるが、たとえば上下左右の動きをとらえる事は得意でも、前後に動くもののスピードを認識する事が苦手だとか、視力はいいが、視野が狭い・・・などなど。一般的な日常生活においては、「新聞や雑誌が読めれば問題ない」という具合に、それほど細かく意識する必要はないかもしれない。しかし、スポーツ選手、特にアスリートと呼ばれるような選手達にとって「眼」ほど重要なものはない。スポーツにおいては、約8割の情報を眼から得るということもあり、ある意味、何十センチもある太い腕をつくるより"いい眼"をつくることが重要となるのだ。いかにすばやく焦点を合わし、的確に距離や速度の情報を脳におくる事ができるかがカギとなる。スポーツにおける「いい目」とは、視力の良さではなく、筋肉に素早く的確に指令を出すことができる総合的な能力である。そして眼の使い方が上手い人とそうでない人とでは、明らかに差がでてしまう・・・。とはいうものの筋肉強化の方法は知っていても、視機能をアップする方法となると、はっきり言ってどうしていいかわからない・・・。そこで、今回のヒューマンでは、延岡市にある"タカオ眼科”に専門の部屋を設けスポーツ競技時に必要とされる眼の能力「スポーツビジョン」を日夜研究している視能訓練士"齋藤 真之介さん"に実際に様々な測定機器を使いながら、スポーツと視機能の関係について詳しく話を聞いてみた。そして彼は「スポーツビジョン」の研究と同時に、地元高齢者ドライバーなどの視機能向上などについても研究を重ねている。「鍛える事ができる」といわれている「スポーツビジョン」だけに、齋藤さんの話はとても興味深いものだった。
(レポート:松田秀人)

齋藤 真之介さん 齋藤 真之介さん

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●視能訓練士・齋藤 真之介さんプロフィール

・1979年生まれ 27歳
・東京都板橋区出身 延岡市在住
・1999年九州保健福祉大学開学と共に
 保健科学部・視機能療法学科に入学
・卒業後、延岡市にあるタカオ眼科に視機能訓練士として就職
・2006年度より九州保健福祉大学
 大学院・通信制・保健科学研究科修士課程に入学
 テーマは「高齢者ドライバーの動体視力の研究」
・現在、延岡アスリートタウンサポーターズ"NATS"会長

齋藤 真之介さん タカオ眼科

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●インタビュー

-----スポーツの経験は?
齋藤:中学、高校では公式テニス。大学からはテニスに加えてマウンテンバイクもやっていました。いまでも通勤はマウンテンバイクをよく使っています。

-----スポーツビジョンの研究をはじめたきっかけは?
齋藤:以前から医療の現場で働きたいと思い、延岡市にある九州保健福祉大学に入学しました。とくに「大好きなスポーツと医療の両方に関わる仕事がやりたい!」そんな事を漠然と考えているうちに、もともと球技(テニス)をやっていたので、「動体視力」という言葉を耳にしており、この辺がスポーツと医療を結びつけるポイントにならないかと、いろいろ調べていくうちに「スポーツビジョン」にたどり着きました。そして大学生の頃に、スポーツを通じて、現在勤めているタカオ眼科の院長先生と知り合い、その時に「私もスポーツビジョンに興味がある」と言われ、様々な話をしているうちに「本格的に設備を導入するから研究をしてみないか?」という事になり現在に至っています。

-----スポーツビジョンについて教えてください
齋藤:まったく聞いた事のない方もいらっしゃるかもしれませんが「スポーツビジョン」とは、1970年代にアメリカで生まれた、スポーツと視機能の関係を総合的に研究する学問です。またスポーツにとって重要な視機能を総称する言葉としても用いられています。そのようなことから、一般にいうところの「視力」ではありません。「視力」は単に、止まっているものを視る能力「静止視力」のことをいうのですが、スポーツの現場においては、その殆どが動いているものを絶えずおいかけねばなりません。「スポーツビジョン」は動体視力、眼球運動能力、瞬間視、深視力、周辺視野など様々な能力の総合力の事を言います。それらの、能力をトレーニングによって個々にあげていき、最終的にスポーツパフォーマンスをあげる事が目的とされます。スポーツ競技では8割以上が眼からの情報でなりたっているので、眼は筋力などと同様に重要なものなんです。よくスポーツの現場で「あいつはいい眼をしている!」なんて聞いた事がありませんか?それは視力ではなく、「スポーツビジョン」の能力が高い事を示しているんです。

-----スポーツビジョンは選手のどの部分に関わってきますか?
齋藤:筋肉のトレーニングなどから得られる効果は、瞬発力(パワー)や持久力(スタミナ)といった、どちらかといえば見た目にも分かり易い・・・実感しやすいものです。たとえば「球速が増した」「飛距離が伸びた」「高く飛べる」といったようなものです。しかし、これらの全ては、筋力だけでなくタイミングなどが重要に関わっています。「どのタイミングでボール打つか」「どういうタイミングで飛ぶか」これらは知らぬ間に眼から入ってくる情報(目測)を最高な形に置き換えて、体で表現できた時におこるものなのです。逆に「筋肉をつけすぎてタイミングが合わなくなった」なんて事もあります。たまに自分より明らかに力のなさそうな人がヒットを量産したり、ボールを遠くに飛ばしたりしている光景に出会った経験はないでしょうか?それは、その人なりの筋力とフォームやタイミングがピッタリとあっている状態で、そういう人の事を、よく「あいつはセンスがいい」などといったりします。さらに、高度な技術を要する場面もあります。たとえば野球などで、チームを勝利に導けるような一流選手は、視野が実に広いのです。投手の投球姿勢をみながら、一塁の走者の動きを認識し、しかも野手の守備位置を把握しつつ、投手が投げたボールに集中する事ができるのです。サッカーにおいては、眼が上下左右にぶれる状態(走りながら)の中、敵と味方の動きを認識しつつ、ボールを追いかけます。それらの多くの情報は絶えず動き、変化します。そんな中、瞬時に最も良い方法を選び出し、的確に行動に移せる確立の高い人だけが一流になれるのです。一流選手は自分の身のまわりにおきている状況を、広範囲で認識し、速度や距離感を割り出し、他の選手より少しだけ早く未来を予測し、イメージを膨らませながらプレイしているんです。この「一歩先を予測する」「イメージする」というのは、経験と優れたスポーツビジョンがなければできません。平たく言えば「スポーツセンス」という部分なんです。陸上競技のような個人種目においても「競技に勝つ」という目的があれば、状況把握能力が高ければ高いほど、失敗を最小限におさえる事ができるのです。そして、どのような競技でも、能力の高い人の技を視て盗まなければなりませんが、センスのいい人は、いいものだけを上手に選び盗んでくることができるといえます。そのような事から、あまり具体化できない「センスをみがく」という部分に大きく関連し、貢献しているのが「スポーツビジョン」だと思います。もちろん、筋力なども重要なことは充分わかっていますが・・・。

-----スポーツビジョンは鍛えられると聞きましたが?
齋藤:はい、トレーニング(下記のコーナーで詳しく紹介)によって向上させる事ができます。スポーツビジョンを向上させるトレーニングは、スポーツをするにあたって最も基礎となる部分のトレーニングなんです。スポーツピラミッド(下から、視覚能力→判断思考力→指令→筋肉→動作)でいえば、視覚能力はいちばん底辺の部分にあたります。そんなことから、視覚能力(視力ではない)が低いと、一度に処理できるデータ量が少ないため、次の動作が少しづつマイナスされていきます。この情報処理能力が低ければ、人がうらやむような筋肉があっても宝の持ち腐れに終わってしまうわけです。ただ、スポーツビジョンのトレーニングをはじめたからといって直ぐに結果がでるものではなく、体重が増えた減ったという眼に見える効果もないのであまり興味をもたれない方が多いかと思われますが、トップアスリートになる過程において、スポーツビジョンを意識するかしないかでは大きく変わってくると思います。もちろん、人間ですから、全てにおいて限界もあり、トレーニングしても向上しない機能もありますが、ちょっとした眼の使い方で、今まで視えなかったものに意識がいくようになったりもします。スポーツの種目によって眼の使い方のコツなんていうのもあるんですよ!

-----今後はどのようにスポーツビジョンを活用したいですか?
齋藤:やはり、高齢者ドライバーの視覚機能の低下をできる限り軽減することでしょうか?もちろん年齢に伴う機能の低下は仕方のない部分もありますが、トレーニングによって、軽減することは可能だと思います。それこそ現在は「スポーツ以外でスポーツビジョンを活かす」という部分をアレコレ考えているところです。なんらかの形で地元の方達のお役にたてればとおもいます。スポーツ選手や高齢者に限らず、一般の方でも気軽にできるようなトレーニング方法などもありますし、将来、様々な可能性を持った子供達には、はやくからスポーツビジョンを意識してもらえたらとおもっています。「歯の矯正」はあたりまえでも、「眼のトレーニング」「眼の矯正」・・・というのは、あまり聞かないかもしれません・・・。しかしイメージする力を向上させたり、センスをやしなったりするのはまず視ることからはじまるとおもいます。そのためにもスポーツビジョンが、一般的な生活中で役立つものににるよう、研究を重ねていきたいとおもいます。

-----齋藤さんにご相談などはできるのですか?
齋藤:スポーツビジョンに関しては、現段階ではスポーツボランティアとして運営しているため、興味のある方がいらっしゃれば、お気軽に声をかけてください。また時間があれば、スポーツ団体などへの出張検査などもおこなっております。

■タカオ眼科
視能訓練士 齋藤真之介
住所:延岡市北新小路3-12
TEL:0982-35-6838
E-mail:ortsaito@yahoo.co.jp

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●検査・測定

 ここからは、実際に機器を使ってスポーツビジョンを測定してみる。

1)問診表に書き込み
 まずは問診表に自己データを書き込む。主にスポーツに関する質問。
問診表

2)屈折検査
 眼のレンズ機能を測定します。モニターには眼球が映し出され、様々な数値が表示されます。
屈折検査 屈折検査

3)静止視力
 止まっている遠くのものを視る能力を測定。これは、誰もが学校の視力検査などで行う方法と同じだが、専用機器を使う事によって、狭いスペースでも、何メートルも離れた状態を作り出す事ができる。
静止視力 静止視力

4)眼と手の協応運動
 視たものを素早く手へと伝える能力を測定する。テレビ番組などで見た事があるかたも多いのではなかろうか?視線は画面中央にもっていき、全体が視野にはいるようにする。次々と点灯するポイントを、早く、正確に手で押す。データ上では、画面が中央で縦横に4分割されるため、自分は「左上が弱い」「下が全体的に弱い」などがわかる。ちなみに、いきなりだと要領が分からなかったりするので、1回目が練習。2回目が本番になるそうだ。
眼と手の協応運動 眼と手の協応運動

5)左右の動体視力
 左右に動くものを視る能力を測定する。これは以外に難しい・・・。頭をまったく動かさずに眼だけで、左から右に流れていく図柄をみて、その形がどうなっているか当てるのだが、少し慣れないと全くといっていいほど見る事ができない。
左右の動体視力 左右の動体視力

6)前後の動体視力
 前方から向かってくるものを視る能力を測定。前から近づいてくる形がはっきり認識できたところで、ボタンを押す。これは特に難しさはない。
前後の動体視力

7)コントラスト感度
 白黒の微妙な対比を視る能力を測定する。
コントラスト感度 コントラスト感度

8)深視力
 物体までの距離や、物体同士の距離の差を感じる能力を想定する。機器の中を覗くと、上の画像にある3本の黒い棒の中央だけが前後にゆっくり動いている。ちょうど赤いラインが3本が横に並んでいる状態なのだが、その瞬間に手持ちのボタンを押し、正確さををはかるのだが、これは難しい・・・。この深視力は大型自動車の免許を取得する時に一定の数値が必要らしく、練習に来る人もいるそうだ。
深視力 深視力

9)立体視
 空間的判断を行う能力を測定する。これは、よく3Dの映画で使われる手法を用いての診断。赤と青のガラスの入った眼鏡をかけ、3Dの処理が施された絵本を視て、立体になって視える部分を差し示す。
立体視 立体視

10)瞬間視
 ここからの3項目は、パソコンソフトを使いカーソルを操作しておこなう。瞬間視は瞬間的に多くのものを見る事ができる能力のことで、ここでは、番号がふってある9個に分かれたマスに一瞬だけ現れる○印を記憶し、○印のついていた番号を言い当てる。
瞬間視

11)周辺視野
 周辺視野は瞬間的にまわりを視る能力を測定する。
周辺視野

12)眼球運動
 眼を素早く物へ動かす能力を測定する。
眼球運動

13)グラフによるチェック
グラフ
 全ての項目の測定が終わると、それぞれの項目が数値化され、グラフになる。さらに各項目のランクなども分かるので、自分がどの項目が苦手で、どの項目が得意かがわかる。そしてこれらの測定機器は、測定するだけでなく、トレーニングにも役立つので、スポーツの種目別に齋藤さんからのアドバイスを受け、トレーニングをすることで苦手な項目を克服できる。

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●トム(Training of Ocular Muscle)
トム トム
 これは、家庭でもできる視機能トレーニング。動体視力を鍛えるのが目的である。「トム(Training of Ocular Muscle)」といわれる、軟式テニスボールに、太いマジックで数字を描き、ゴムひもを取り付けたものを利用する。ボールはボレー練習用のものがいいようだが、特殊なものは使用していないので、簡単に自作できるはず。使用方法は、ゴムひもを持ち、上下左右にゆっくりまわしながら、数字を読めるようにする。はじめは頭を動かしながらになるだろうが、慣れてきたら眼だけで追いかけるようにする。1人でも2~4人でもトレーニングができる。

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 さらに、身の回りにあるものを利用したトレーニング方法もたくさんあるようだが、スポーツビジョンに興味のある方は是非、齋藤さんの元で視機能の測定をし、自分の目的にあったトレーニングを効果的に行えるようドバイスなどを受けていただきたい。スポーツをするにあたり「いい眼をしている」「○○のセンスがいい」といったアバウトな言い方ですまされてしまうような事の多くは、眼から入ってくる情報をいかに素早く的確に解析し、瞬時に処理できるかの能力だったりする・・・。たとえば、ある程度のレベルに達しているにもかかわらず、伸び悩んでいるような事があれば、眼のトレーニングをすることで緩和できる事があるかもしれない。

投稿者 pawaspo : 2006年05月19日 12:26

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