2008年04月24日
大いなる陰謀 [ 劇場/洋画/ドラマ ]
原題:Lions for Lambs
(2007年/米 1時間32分 カラー)
20世紀フォックス映画
監督:ロバート・レッドフォード
製作総指揮:トム・クルーズ、ポーラ・ワグナー、ダニエル・ルピ
製作:ロバート・レッドフォード、トレイシー・ファルコ、
マシュー・マイケル・カーナハン、アンドリュー・ハウプトマン
出演:トム・クルーズ、ロバート・レッドフォード、メリル・ストリープ
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■パワナビ松田 レビュー (劇場にて鑑賞)
評価:★★★☆☆
将来を嘱望され、又野心家でもある共和党の若手上院議員ジャスパー・アーヴィング(トム・クルーズ)は「アフガニスタンにおける新たな作戦についての情報提供」という名目で、40年間に渡りアメリカの政治と向き合ってきたベテランジャーナリストのジャニーン・ロス (メリル・ストリープ)に1時間にも渡る独占インタヴューを提案する。大統領の側近かつ軍事アドバイザーであるアーヴィングからの破格の申し入れだけにTV局サイドも目の色を変える。ジャニーン・ロスが特別に指名されたのには訳がある。きっかけは8年前、アーヴィングが初当選したさいに書いた「共和党の若きホープ」という記事を、アーヴィング自身が大変気に入っていたという事から・・・。そしてインタヴュー当日、ワシントンD.C.にあるアーヴィングのオフィスにやってきた彼女は、秘書すらも置かず1対1で語りかけてくるアーヴィングに好意を抱きつつ、本題である「少数精鋭の特殊部隊によるアフガニスタン山中高地占領作戦を成功することで、対テロ戦争そのものに決着をつける」という内容について、ことさら積極的に語りかけてくる彼に戸惑いながらもベテランジャーナリストならではの鋭い質問を投げかける。やがて両者の話は「9・11同時多発テロ」にはじまり、「なぜこのタイミングに中東からの米軍撤退ではなく戦火拡大が必要なのか?」と白熱する・・・。しかしアーヴィングの「作戦を達成するためには手段を選ばない」という激しい言葉を聞いたジャニーン・ロスの胸中に様々な疑惑が浮かび上がる・・・。しかし時を同じくして、アフガニスタンでは山中高地占領作戦が既に実行に移されていた。物語の舞台は「アーヴィング上院議員のオフィス」から「アフガニスタン山中の戦場」に移る。さらには「西海岸にある大学内」へ・・・。そしてそれぞれの場所では、政治家、ジャーナリスト、兵士、大学教授、生徒といった立場からの視点で「自己」「組織」「国家」においての「戦い」そして「選択」が、多くの台詞を中心に展開され、やがて戦場を通じ、それらはリンクしていく。
今やクリント・イーストウッドと共に、俳優というようりは監督という立場での活躍が目に付くロバート・レッドフォード。自身としては「バガー・ヴァンスの伝説」以来7年ぶりとなる監督作品。しかも今回は監督だけでなく大学教授役として出演もしている。またベテランジャーナリスト役のメリル・ストリープはもちろん女優としても大ベテラン。過去には「クレイマー、クレイマー」「ソフィーの選択」などでアカデミー賞を受賞、近年では「プラダを着た悪魔」でもカリスマ編集長として活躍。おなじみトム・クルーズも、今回はノンアクションで共和党の若手上院議員の役を熱演している。ほとんどの場面が台詞中心で、あまり動きがないことから、役者としての技量がかなり重要になるが、ロバート・レッドフォード、メリル・ストリープといった大ベテランはもとより、二人の前ではどうしても「若手」に見えてしまうトム・クルーズの熱演のほどは特に見所といえる。そんな彼もいつの間にやら45歳と、もはや若手とはいえなくなってしまったが・・・。
ところで、この作品の邦題である「大いなる陰謀」と、その豪華なキャスティングから、ハイテク機器バリバリの大掛かりなサスペンスなどと、つい受けとりがちだが、内容はまったくの正反対で、冒頭にあるごくわずかな戦場への出撃シーン以外はアクションもなくただ淡々と会話がすすめられていくに過ぎない。過去においては、たった一つの部屋で、陪審員が評決に達するまでの議論の様子を描いた「十二人の怒れる男(1957年/米)」という作品があったが、ただ「大いなる陰謀」はあそこまで徹底しているわけではない。原題も「12 Angry Men」と内容もタイトルのそのままだった「十二人の怒れる男」に対し、こちらの「大いなる陰謀」の原題は「Lions for Lambs」。「子羊のためのライオン」とでもいうのだろうか?少々大作っぽくは感じられないが、内容的にはこちらのタイトルのほうが哲学的でもあるし、劇中でも「まるで子羊に率いられたライオンのようだ」という皮肉が語られる場面もあり、それがまた「なるほど」と思えたりもする事から、観賞した人なら原題のほうがしっくりくると思われるのではないだろうか?また、劇中における様々な立場の人間達が、それぞれの視点から「戦う」「選択する」ということに対して、見ている側に語りかけ、問いかけるような作品だけに、「これが答えです」「誰々が犯人です」といった事にはならない。しかし「大いなる陰謀」というタイトルから受けるイメージからすると、それらの答え、もしくは物語の落としどころが明確でないと、見る側としてはなっとくがいかない(苦笑)。やはり原題のほうがしっくりくる。
これは予断だが、「陰謀」というのなら、もともと民主党支持者であるロバート・レッドフォード監督が、あえてアメリカ大統領選挙を迎える前年(アメリカでは)に、トム・クルーズ演じる共和党のアーヴィング上院議員に「戦争の激化」をうたわせるような作品を公開することこそ「大いなる陰謀」ではないか?などと、個人的に笑ってしまったりもし、比べるべきではないかもしれないが、ついついアル・ゴア元アメリカ合衆国副大統領の主演による、地球温暖化をテーマにした「不都合な真実(An Inconvenient Truth)」がチラッと頭に浮かんだりもしてしまう・・・。まあ、それはそれでこの作品がきっかけとなり、もっと真剣にアメリカの実情に踏み込んで考えてみようと思えればプラスにはなるし、民主、共和のどちらを選ぶにせよ、選挙の投票率が上がればそれにこしたことはない。ただし、単に「抗菌コート」に代表されるような「表示」に安心感を求め、温室でぬくぬくと育っている現代日本人にとっては、リベラリズムや偏見、差別など、考える暇・・・というよりは、ほとんどどうでもいいわけで、そんな事からこの作品は、ただよりかかっているだけで楽しませてくれたり、感動させてくれたりするようなものが好きな人にはおすすめできない。なんとなく「ジャック・ライアン・シリーズ」を楽しむような感覚で座席に座ると、大変な事になるのでご注意あれ・・・。
とにかくこの作品は、楽しい、楽しくないではなく、「自分の力でどれほどもぐり込んでいけるか?」に尽きる。見ているだけでなく、スクリーンの中に自分自身も入り込み、積極的に自分の意見をぶつけないとどうしようもなくなり、自分の居場所がなくなってしまう・・・。戦争はもちろん戦いだが、平和や安らぎを維持することも、家族や仲間を守ることもまた大いなる戦いである。いい事にせよ、悪い事にせよ、人間が個人の力で何かを「選択」しようとすれば、かならず摩擦がおこり、そこにエネルギーが発生するから何かが生まれる。そして、何かが生まれる時にはかならず、それ相応の痛みが伴うし、痛いからこそ体に刻み込まれ、また大切にしようと実感できる。「痛いの嫌い・・・」とただ傍観しているだけでは何も起こりようがない・・・。自己において「戦うという事」「選択するということ事」を、自分なりにもう少し突っ込んで考えたいという人には刺激になる映画かもしれない。
投稿者 blogpawanavi : 2008年04月24日 23:40
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